公開日 2021年10月12日
2021年9月16日(木)「ダイバーシティ研究環境実現のために~SAN’INダイバーシティ推進ネットワークの軌跡と未来~」を開催いたしました。当日は連携機関や協力機関、ダイバーシティ事業に取り組む他大学などオンライン63名、対面30名の合計93名の参加者が集まりました。
はじめに、大分大学 副学長(ダイバーシティ担当)松浦恵子先生より「地域での産学連携型ダイバーシティ~サファイア人財育成プロジェクトの推進~」というタイトルで基調講演をしていただきました。
大分大学は、女性研究者をリーダーとする産学連携共同研究、意識改革に関するセミナー・シンポジウム、スキルアップセミナー、異業種交流会の実施と共に、おおいた女性人財育成プログラムの実施によって女性に対するエンカレッジを継続的に行ってこられました。このような取組みにより、伝統的に男性中心の文化が根付いてきた大分の地で、ダイバーシティの推進を着実に継続されてきたことが、ダイバーシティ事業として高い評価を得られた要因だったということです。島根大学としては、大分県同様、女性活躍推進が全国平均より遅れている地方の国立大学として、学ぶべき点が数多くありました。
後半は,連携4機関(島根大学、島根県立大学,松江工業高等専門学校,米子工業高等専門学校)によるダイバーシティ事業の取組紹介と,パネルディスカッションを実施しました。パネルディスカッションでは、連携4機関の現場の教員が登壇し、現場の視点からのダイバーシティの浸透について、プレゼンテーションしていただきました。
島根大学総合理工学部亀井先生は、理工学分野で女性の積極採用が厳しい状況について、そもそも理系進路を選択する女子学生が少なく、その中で大学院進学する女性は更に希少という中で、教員公募への応募者の中に、業績や勢いの面で男性に勝る女性はめったにいないという状況や、一部の教員はダイバーシティ事業への不信感を感じているなど正直な現場の声をまずご紹介されました。そのうえで、自らがダイバーシティ事業に取り組んでいく中で、学科の雰囲気、学生対応、女子学生に対するロールモデルとなる点で女性教員を増やすことが大学として有益であることを実感され、大学の戦略として女性限定公募を実施していくことが有効な策ではないかという提案をいただきました。
島根大学生物資源科学部の室田先生は、独自に学部内で女性教員と、女性教員と職務上かかわりの大きい男性教員に対して実施したアンケート結果とそれに対する考察を発表されました。研究環境に対する意見としては男女間であまり差が表れなかったものの、ダイバーシティ推進の取組に対する意見では、男性の方が女性よりやや高い評価をする傾向が見られました。これは、男性から見ると、女性に対する支援制度が多く行われていることからダイバーシティ推進の取組がなされているとして評価する一方、制度の対象となる女性の目から見ると、制度の内容についてより詳細に見るため、改善の余地が見えるのではないかということでした。また、ダイバーシティに関する取組の教員向け広報により力を入れ、女性だけでなく男性も利用できる制度をもっとアピールすることも重要というご意見をいただきました。
松江工業高等専門学校の周藤先生は、女性教職員・女子学生比率向上WGの活動内容について発表されました。このWGは、教員、職員、学生の女性比率の数値目標に関することを審議するもので、5年間で目標達成するためのアクションプランを制定するために女性比率40%以上の構成メンバーで立ち上げられました。このWGでは、高専全体で女性比率を上げる意識を醸成するために、女性比率の目標値について、学科ごとに目標値を設定し、特定の学科に依存しない体制づくりがなされました。そして、「超重点項目」として、女性教員の定着を図ることを掲げ、働き方改革の推進、教育・研究両面へのサポート体制の整備、高専の教育システムに理解ある教員を採用するための人材育成、女性限定公募の実施を進めていくとのことでした。また、5年後の目標値達成のためのアクションプランとして、教職員と学生双方に対するダイバーシティの意識の醸成、広報活動等を実施していくとのことでした。
時間の都合上、十分にディスカッションを行うことは叶いませんでしたが、口頭では次世代たたら協創センターの三浦氏から、最先端研究の現場とダイバーシティ事業の在り方について質問があり、チャットからも多くの質問がありました。
本シンポジウムでは、各機関の現場教員から具体的なダイバーシティ推進の状況を伺うことができたと共に、4機関におけるダイバーシティの浸透を実感することができました。ここで得られた共通認識を礎に、今後よりいっそうのダイバーシティの発展に向けて、SAN‘INダイバーシティ推進ネットワーク全体で連携し、取り組んでまいりたいと思います。
なお、当日いただいた質問への回答については、下記にまとめましたのでご覧ください。
松浦先生基調講演
・質問 国立大学法人教員や公的研究所等での採用や研究費取得において,男性に比べ女性を優先する研究施設が多いように思います。ダイバーシティ実現に向けて女性を優先することは公平さを欠くのではと感じますがどのようにお考えでしょうか。 そもそも修士・博士課程全体に対する女性の割合が男性に比べて少ないため,その後のキャリアにおいて女性の割合が少ないのは当然のように思います。 ・回答 マイノリティを優先することは公平性が保てると考えます。女性が代表となる研究に対する支援をすると、これまで女性を代表として推してこなかった多くの男性教授が、女性を代表とすることに積極的になるようになり、多くの女性が機会を得ることができるようになりました。今後女性の数が増えてくれば、将来的に支援は必要なくなります。しかし、今は過渡期なので必要だと考えます。
・質問 「女性活躍の重点工場」とはどのような工場ですか。 ・回答 女性の働きやすさを軸に女性活躍のモデルとなるような工場としたということです。醤油を製造する醸造企業の取組で、伝統的な分野ながら、男性からの反発等は特にありませんでした。
・質問 地域と協働したダイバーシティの取り組みとして企業に対して女性目線でどのようなことをされていますか。 ・回答 異業種交流会、おおいた女性人財育成プログラムを実施したほか、従来大学内で行なっていたセミナーを積極的に広報して、企業の方にも参加していただきました。企業の中にいて知らなかった世界を見ることができたという声をいただいています。
パネルディスカッション
・質問 活躍している女性の割合が男女全体か女性全体かで混同しやすいので情報発信に注意が必要だと思いました。 女子学生が本当に知りたいのは「女性でも男性と同じように活躍できるのか否か」だと感じます。「全体に対する女性比率」ではなく「女性応募者・希望者に対する採用比率・活躍比率」「女性在職者の離職率」が重要と思いますが,いかがでしょうか。 ・松浦先生回答 おっしゃるとおり、「女性応募者・希望者に対する採用比率・活躍比率」「女性在職者の離職率」が重要というのはその通りだと思います。 一方、例えば女性は3名応募して2名採用、男性は12名応募して8名採用だと確かに採用比率は同じです。けれど、全体からみた女性が少ないままでは理工系の女性は増えません。 そして理工系に女性が増えた方が、多様な研究力、次世代のロールモデルについて考えたときによい、ということから国でも大学でも女性を理系の学部に増やそうとしています。ですから女性応募者・希望者を増やすように、努力しているわけです。そのため、全体における女性比率も重要になってくるのです。もともとの比率が同じだったらそれは考える必要がないと思います。 つまり全体の比率と採用比率と、両方別々に大切だと思います。 そしてもちろん離職率はまたさらに別に、とても重要だと思います。ただ、なぜ離職するのか、要因を分析しなければならないとは思います。離職してステップアップすれば、それは活躍できることにつながるかもしれません。 女子学生が知りたいこと、「女性でも男性と同じように活躍できるのか否か」は本当にその通りであり、それは採用より、登用つまり上位職になり、独立した研究者となって素晴らしい研究が自由にできるようになることですので、そのために、採用、登用を増やそうとしているのだと思います。島根大学様はまさにそういう取組をなさっていると存じます。 ・河野先生回答 松浦先生のおっしゃる通りだと思います。言及のあった「全体における女性比率」、「女性応募者・希望者に対する採用比率・活躍比率」「女性在職者の離職率」はいずれも異なる意味で重要な数値となっておりますので、それぞれの数値の動向に気を配りながら、島根大学として、女性の活躍を促進するために、女性の採用と上位職登用を積極的に進めてまいりたいと考えております。