島根大学 ダイバーシティ推進室

SAN’INご縁ネットミーティング 第50回記念 オンラインセミナー/大沢真理先生(東京大学名誉教授)「社会政策の比較ジェンダー分析-分野の開拓はアカデミック・セクシズムとの闘いでもあった」を開催しました

2021.12.01

2021年11月24日(水) 12:05~13:05に、SAN’INご縁ネットミーティング 第50回記念 オンラインセミナーを実施しました。今回は東京大学名誉教授の大沢真理先生をお招きし、「社会政策の比較ジェンダー分析-分野の開拓はアカデミック・セクシズムとの闘いでもあった」についてお話しいただき、島根大学、米子高専、広島大学などから33名の参加がありました。

 はじめに、大沢先生の博士論文出版後の研究経過をお話しいただきました。大沢先生は東京大学社会科学研究所の全体研究「現代日本社会」に参加され、1991~1992年に出版された全7巻の論文の中で唯一女性に関する寄稿をされたとのことでした。このプロジェクトは現代日本社会の特徴を「会社主義」[1]と規定していました。しかし、「会社主義」の仮説には、女性が不在でありジェンダーが無視されていました。それを批判した大沢論文は、先輩研究者に受容されにくかったそうです。
 しかし、2010年から2014年に実施された東大社研プロジェクト「ガバナンスを問い直す」は、ジェンダー視点から「再生産」(日々の生活維持や次世代育成)を、ガバナンス論の主題とし、またガバナンスに内在する権力性を問題として取り上げるようになり、状況は変化したといえます。
 いっぽう、大沢先生は博士論文では19世紀のイギリスの生活保護の研究をしていたこともあり、1990年代半ばから福祉国家研究に取り組むようになったそうです。1990年代にはデンマーク出身の社会学者であるエスピン=アンデルセンによる福祉国家の3類型論が学界をリードするようになっていました。しかしそれらの研究は、男性を起点にしており、フェミニスト社会政策学者から批判も出されていました。また日本の位置づけに成功していませんでした。大沢先生は制度の構造や機能をジェンダー視点で見直すことにより、より各国の特徴が浮き彫りになると考え、福祉国家研究の再構築にあたり、生活保障システムの比較ジェンダー分析の提起に至ったとのことでした。

 次に大沢先生の研究視点から分析した現代日本社会において我々が置かれている状況をお聞かせいただきました。
 日本の生活保障システムでは、現在でも夫が稼ぎ、妻と子を養う世帯が標準とされており、税・社会保障制度で「男性稼ぎ主」が優遇され、主婦が育児・介護を無償で担うという前提のために、社会サービス給付が薄いという特徴があります。その結果、就業しているのに貧困に陥るという事態が日本では多く起こっており、特に働くシングルマザーの貧困率の高さはOECD諸国で最悪の水準とのことでした。日本のこの状況は、子育てや女性の就労に税・社会保障が罰を科しているような状態であり、人口減少社会として極めて不合理であると大沢先生は指摘します。
 そして、この状況にコロナ禍とともに闇雲な「対策」の悪影響が追い打ちをかけ、日本では女性、特に母子世帯の置かれている状況がますます悪化しているとのことでした。

 参加者からは、日本の今後の見通しについて、私たち個人レベルでできることは何か、また後進の女性研究者へのメッセージをいただきたいなどの活発な発言があり、短い時間ではありましたが、濃密な学びの時間となりました。


[1] 1980年代後半のバブル景気や、年に4-5%と欧米諸国よりも高めの経済成長率を背景として、日本経済の成長力の基軸に「会社主義」=「企業の強い従業員凝集力」があり、それが過労死などの問題の土壌でもあると捉えた。(大沢先生加筆)